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ピロリ菌感染症

ピロリ菌感染症について

ピロリ菌感染症についてピロリ菌は正式にはヘリコバクター・ピロリという名称で、0.5μm程度の太さ、2.5~5μm程度の長さでらせん状(ヘリコ)に曲がっていて、長辺の両端に数本ずつ繊毛をもった形をしている細菌(バクター)の一種です。
強い酸性で通常は生物が生息できない人間の胃の中にある尿素を用い、自らのもっているウレアーゼという酵素によってアンモニアを産生し、自らの周りを中和することで胃粘膜に棲みつきます。このアンモニアの毒性や胃粘膜の中和による変質などから、感染症を起こしてしまうのがピロリ菌感染症です。
ピロリ菌感染症を起こすと、胃の中で炎症が起こり、様々な疾患の原因となります。主な疾患としては、慢性胃炎、萎縮性胃炎、腸上皮化生といった胃炎に関する疾患や、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の50%はピロリ菌が原因とされ、胃がんに至っては、日本の統計では90%以上、世界的な統計でも世界保健機構(WHO)の報告によれば80%以上がピロリ菌感染を原因としています。
こうした、様々な悪影響を与えるピロリ菌感染症については、除菌の方法が確立しており、感染が判明した場合、適切な時期に除菌治療を受けることが勧められています。
感染検査と除菌治療は、内視鏡的に慢性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、早期胃がんといった疾患の確定診断があることで、健康保険適用で検査および治療が可能です。
ピロリ菌感染の経緯はあまりはっきりしていませんが、不衛生な飲み水や人糞肥料で育てられた農作物などの衛生環境と大きく関連しており、1940年代やそれ以前に出生した年齢層では効率に感染がみられました。衛生環境が整ってきた昨今ではピロリ菌感染率は減ってはきましたが、感染は若い世代でも0とは言えません。ピロリ菌の感染は6歳までの幼少期に成立することが分かっていて、衛生環境の整った現代では父・母からの家族内感染が、感染経路の80%を占めると言われています。
ピロリ菌は一度感染すると、ほとんど自然治癒することはなく、一生その影響があると考えられていますので、40歳を過ぎて胃がんが増加する年齢を迎えたら、定期的に胃カメラ検査を受けることが大切です。

ピロリ菌感染症の症状

ピロリ菌感染症になっても、ほとんどの場合、強い自覚症状はありません。時に胃もたれしやすいなどの症状が現れるもありますが、胃粘膜の表層には知覚神経がないため、ピロリ菌感染によって粘膜層に炎症が起こっていても、自覚症状がほとんどなく、気づきづらくなってしまいます。
しかし、ピロリ菌感染症による慢性胃炎が続くと、胃粘膜が萎縮し繊維化してしまう萎縮性胃炎を起こし、さらにその状態が続くと胃の粘膜が腸の粘膜と似た構造に置き換わってしまう腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)が起こり、胃がんのリスクが高まるので注意が必要です。その他、胃の粘膜の胃酸からの防御機能が低下し、炎症が深く進むことで起こる胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、実に様々な上部消化管の疾患の原因になるのがピロリ菌感染症です。

ピロリ菌感染症の原因

ヘリコバクターピロリ菌ピロリ菌の感染経路は経口感染です。多くの場合、不衛生な飲み水や人糞肥料で育てられた農作物などの衛生環境と大きく関連しており、6歳程度までの免疫力が不完全な乳幼児時期に感染します。
近年は、衛生環境が整備されてきて、急速に国内の感染者の数は減ってきています。そのため、1940年代やそれ以前に出生した年齢層では、約80%の人が感染していましたが、そこから年代が10歳若くなるごとに10~15%ほど感染率は下がっていき、1980年代生まれで10%程度となっています。さらに、2000年代以降の出生者では感染者は5%程度とされています。しかし、日本は先進国の中では異例にピロリ菌保菌者が多いという統計がります。これは、日本には離乳期に口移しで食事を与える習慣がのこっていることも原因の一部ではないかと考えられていますが、感染経路ははっきり分かっていません。親世代が保菌していると、子世代に知らずにうつしてしまっている可能性があるので、要注意です。裏を返せば、ピロリ菌感染者の両親いずれかにはピロリ菌感染が見つかる可能性が高いとも言えます。

ピロリ菌感染症の検査

ピロリ菌の感染検査には、胃カメラを使う方法と、胃カメラを使わない方法にわけることができます。
それぞれにメリット・デメリットがありますが、感染検査では胃カメラを使用した「迅速ウレアーゼ法」や胃カメラを使用しない「血中/尿中抗体検査」が、除菌治療後の判定には胃カメラを使用しない「尿素呼気検査」が利用されるケースが多くなっています。
なお、ピロリ菌感染検査および、除菌治療は胃カメラ検査によって慢性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの確定診断があるときに健康保険が適用されます。

胃カメラを使用しない検査法

抗体や抗原の存在の有無を血液、尿、便などから判定する方法と、呼気に含まれる二酸化炭素を調べる方法があります。生検後出血の危険がなく、侵襲のない身体に優しい検査です。抗体検査は検査費用も安価です。
当院ではこちらの方法のうち、血液・尿・呼気を用いた方法で検査を行っています。

血清抗体、尿中抗体法

ピロリ菌に感染していると、体内に菌と闘うための抗体ができます。抗体は血液や尿中にするため、血液検査や尿検査で感染判定を行うことができます。正確性(検査感度)が85~95%とやや低くなりますが、簡易な方法で侵襲も少ない検査です。除菌後もしばらくは抗体が体内に残りますので、過去の感染か現在の感染かを区別できないという欠点があるため、ピロリ菌治療歴の有無や、胃カメラでの活動性感染所見の有無から総合的に感染を判断しています。当院ではいずれの方法でも検査を行っています。

便中抗原法

ピロリ菌は胃中に棲みついていますが、ときにその一部が剥がれ落ちて腸へと運ばれ、便中に混じって排出されることがあります。そのため、検便検査で便中にピロリ菌が存在するかどうかを判定することができます。感度が高く非常に良い検査ですが、来院されたその場で迅速に検体採取が出来ないことから、当院では行っておりません。

尿素呼気試験

ピロリ菌はウレアーゼによって尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。このとき、二酸化炭素は胃壁から吸収され、すぐに呼気として体外に排出されます。この性質を利用し、二酸化炭素を自然界にほとんど存在しない同位元素に置き換えた尿素を使った試薬を服用し、服用前と後の呼気を特殊な袋に採集して比較し、服用後の呼気に同位元素の二酸化炭素が含まれていれば陽性という仕組みの検査です。検査感度・検査特異度ともに98~100%と非常に正確な検査で、感染の診断にも、除菌後の判定にも有用です。検査の前に飲食制限がつくことがデメリットです。当院ではこちらの方法でも検査を行っています。

胃カメラを使用する検査法の紹介(当院では実施していません)

胃カメラ検査の際に、生検鉗子を使用して胃の粘膜のサンプルを採取し、検査を行うことで感染判定します。
生検後出血の危険がわずかにあること、どの検査も検査費用が高いことから、当院では行っていません。

培養法

採取した組織を培地で培養し、ピロリ菌の有無を調べます。
この方法はもっとも正確な結果を得ることができ、菌株の特定、保存なども可能ですが、結果を得るまで1~2週間を要します。

鏡検法

採取した組織を特殊な染料で染色し、顕微鏡で観察します。結果を得るまで1~2週間かかります。

迅速ウレアーゼ試験

ピロリ菌がウレアーゼによって尿素から強アルカリ性のアンモニアを作る性質を利用し、リトマス試験紙のような性質をもつ特殊な試薬に採取した組織を入れて色の変化によって感染の有無を判定する方法です。名前の通り迅速にその場で結果を得ることができるのが特徴です正確性(検査感度)が85~95%とやや低いことが難点です。

ピロリ菌感染症の治療

おおの内科・内視鏡クリニック検査の結果ピロリ菌感染陽性となった場合、除菌治療を行います。除菌治療は、2種類の抗生剤と1種類の胃酸分泌抑制剤を各1錠ずつがセットになった除菌キットを1日2回ずつ1週間服用するだけの簡単なものです。その後4週間以上あけて除菌判定を行い、成功していれば治療は完了です。しかし抗生剤に対する耐性のある菌株に感染している場合には除菌に失敗することがあります。その場合は、抗生剤の1種類を変更して2回目の除菌治療を1日2回1週間という同様の方法で行います。ここまでで、通常の胃酸分泌抑制剤であれば95%程度が除菌に成功します。近年開発された新しい作用メカニズムのタケキャブという胃酸分泌抑制剤を使うと98%が除菌に成功します。稀に2回目でも失敗することもありますが、健康保険適用で除菌治療を行うことができるのは2回目までで、その後継続する場合は自由診療となります。
除菌に成功することで、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの発症率は大幅に低下します。ピロリ菌は通常6歳ぐらいまでの免疫力が弱いうちに感染するものですので、一度除菌に成功するとまず再感染することはありません。しかし、ピロリ菌感染時に受けた胃へのダメージが完全になくなるわけではありません。またピロリ菌がいないからといって、胃がんや潰瘍などの発症がまったく0になるわけでもありませんので、定期的な胃カメラ検査などを継続して行うことも大切です。

ピロリ菌治療の副作用

除菌治療を始めると、副作用が現れることがあります。主に抗生剤の使用によるものが原因と考えられます。
服用中に以下の症状が現れた場合、遠慮無く医師に相談してください。
なお、その場合も自己判断で服薬を中止したり、量を減らしたりせず、定期的な服用を続けてください。
ただし、発疹が出た、アナフィラキシー症状が現れたなどの場合は、即刻服用を中止して医療機関を受診しましょう。

主な副作用

  • 便が軟らかい軟便になる、下痢を起こす
  • 苦みを感じる、金属のような味を感じるといった味覚障害を起こす
  • 肝機能障害を起こし、AST(GOT)やALT(GPT)の数値が変動する

稀ですが、内服直後から蕁麻疹・咽頭違和感・喘鳴・嘔吐など即時型アレルギー症状(アナフィラキシー症状)や、内服後2日~4週間経過後に全身に発疹がでる遅発型アレルギー症状が出る場合があります。その場合には直ちに服薬を中止して医療機関を受診しましょう。

日本ヘリコバクター学会では、ヘリコバクター・ピロリについての様々な研究結果を『H. pylori感染の診断と治療のガイドライン』としてまとめています。2016年に発行された2016年改訂版ではとくに1次除菌・2次除菌の区別なく、治療認可後の大規模な副作用調査で、副作用の発現率は4.4%で、そのうちの多くが下痢・軟便でした。また治療中止が必要なほど重篤な副作用は1.3%程度となっています。副作用は年齢に限らず一定割合で現れることが判明しています。
なお、除菌治療中に一時的に少数の方に逆流性食道炎の症状が現れることがありますが、ほとんどの場合、一時的なもので自然に快方に向かいます。