便潜血検査について
便潜血とは、目に見えないほど少量の血液が便中に混ざっていることで、消化管のどこかからの出血がある可能性を示します。この便潜血を調べる検査は、早期の状態ではほとんど自覚症状がない大腸がんのスクリーニングテストとして、定期健診などで行われています。
検査は、事前に問診表などとともに配布された検査用のキットに付属する専用のスティックで、検査の前々日と前日など、検査の3日以内に2回にわたって決められた方法で便をこすって採集するいわゆる検便検査です(便潜血2日法)。大腸がんは、便潜血が2回のうち1回陽性の患者さんで20人に1人、2回中2回陽性の患者さんで10人に1人に見つかると言われていますので、陽性と判定されたら、必ず大腸カメラ検査を受けましょう。健常者の便にも若干の血液成分は含まれていますので、実際には大腸がんが無くてもこの検査で陽性と判定されてしまうこともあります。しかし、大腸がんが無かったからといって、大腸カメラ検査が全く無駄になるわけではありません。40歳以上の成人では、3人に1人で大腸ポリープが見つかります。大腸ポリープを治療しておけば将来の大腸がんを予防できるので、大きなメリットです。そのため、便潜血陽性と診断された方は、精密検査として大腸カメラ検査をお勧めいたします。
便潜血陽性は1回でも
精密検査を
便潜血検査は2日法で毎年受診することが勧められている検査で、実際に特定健診や会社の定期健診などでは標準メニューとして採り入れられています。
2回にわたって採集するのは、より正確に結果を反映するためで、2回のうち1回しか陽性でなかったから、大丈夫と考えるのは誤りです。2日にわたって行うのは、大腸がんがあっても便中に含まれる血液成分が多くない日もあるためで、検査の回数を増やすほど、大腸がん患者を見つけ出す確率が上がるためです。2日にわたって行うことで、大腸がん患者の80%を見つけ出すことが出来ると言われています。もっと言えば、3日以上おこなった場合にはさらに大腸がん患者を見逃しの危険が下がります。そのため、ある年に受けた便潜血検査が陰性であっても、毎年受け続けることで大腸がんを早期に発見できる可能性が高まるため、大腸がん検診は毎年受け続けることが大切です。
時々、便潜血陽性と診断されて来院された方から、再度便潜血検査を受けて陰性なら大腸カメラ検査は受けなくていいかという質問があります。これは、残念ながら受けなくて良いということにはなりません。100回便潜血を受けて、99回陰性でも、うち1回でも陽性であれば「大腸がんの可能性あり」ということになりますので、大腸カメラ検査を受けて異常がないことを確認されるまでは、大腸がんの心配がなくなることはありません。
たとえ進行大腸がんでも毎日出血しているとは限らないので、1回でも陽性になれば、大腸カメラ検査を受けてください。
大腸がん以外の病気もありえます
便潜血検査の欠点は、出血があるということが判明するだけで、どこから、何の病気による出血なのかという判断がつかない点にあります。確かに大腸がんでも陽性になることがありますが、その他の疾患でも大腸ポリープ、炎症性の腸疾患でも出血がある場合もあり、そのどれかは特定できないのです。
痔がある方が、便潜血の原因を痔の出血だろうと思い込まれて、精密検査を受けないことは問題です。便潜血検査は、痔の有無では陽性率に差が無かったとされる研究結果があります。自分は痔からの出血だと思い込んで大腸がんの発見が遅れたケースもあります。
また、40歳未満の若年者で便潜血検査陽性の場合にも注意が必要です。20代の方に大腸がんが見つかったこともありましたし、潰瘍性大腸炎やクローン病など、若年者に多く発症する難病でも便潜血検査陽性となることがあります。
便潜血検査陽性と判定された場合は、まずは受診して医師に相談しましょう。
便潜血検査陰性の方へ
便潜血検査は、大腸がんのスクリーニングテストとしては、有効性のある検査ですが、早期のがんや前がん病変の大腸ポリープといった出血があることが少ない病変がある場合の発見率はかなり下がってしまいます。また、便のやわらかい小腸よりのほうに大腸がんができている場合、出血があることが少なく、発見できないこともあります。
そのため、便潜血検査が陰性であっても、これで大丈夫と安心することは危険です。40歳をすぎたらまずは大腸カメラ検査を受けましょう。次に受診するタイミングは、検査の結果を受けて医師が支持しますのでそれにしたがって定期的に大腸カメラ検査を続けていきましょう。
また、血縁の家族に大腸がんを発症したことがある方がいる場合は、30歳をすぎたころから定期的に大腸カメラ検査で大腸の状態を確認することをお勧めします。
便潜血検査陽性で
考えられる疾患
便潜血は、小腸や大腸、肛門からの出血のケースが多く、出血を起こす疾患としては、細菌感染による感染性腸炎、その他小腸や大腸の疾患が考えられます。
感染症の原因菌としては、カンピロバクター、O-157に代表される病原性大腸菌、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌などが代表的です。
肛門の病気
いぼ痔
いぼ痔は、肛門を護ってクッションの役割を果たしている、肛門周辺の静脈がうっ血して、いぼ状に腫れる疾患です。
肛門の直腸側にできる内痔核、外側にできる外痔核がありますが、とくに内痔核が肛門から脱出する脱肛に伴って鮮血性の出血する場合があります。
切れ痔
切れ痔は、便秘で太くて硬い便が出る際や、ひどい下痢で勢いの激しい便がでる時に肛門に異常に負担がかかり、肛門の皮膚側が裂けてしまうことで起こります。皮膚が裂けることで出血がありますが、あまり大量の出血はありません。
肛門ポリープ
切れ痔やいぼ痔を繰り返すことで、肛門周辺の皮膚や粘膜が常に炎症を起こした状態で、直腸側の粘膜にできるのが肛門ポリープ、皮膚側にできるのが見張りいぼです。どちらも排便の際などに出血する可能性があります。
大腸の病気
大腸ポリープ、大腸がん、直腸がん
大腸にできる大腸ポリープや大腸がんは出血しやすいもろい組織で、便とこすれる程度でも出血してしまいます。
直腸がんも大腸がんの一種ですが、一番硬い便が溜まっている時間が多い部分ですので、とくに出血しやすくなっています。
病変のできている位置によって出血も暗赤色から鮮血便まで色や状態が様々です。
直腸脱、直腸粘膜脱
排便時に強くいきむ癖がある場合、直腸全体が反転して肛門外に脱出してしまうことがあります。これを直腸脱といいます。
また、直腸粘膜の一部が反転して脱出している場合は直腸粘膜脱といいます。どちらの場合でも潰瘍を伴うと、出血する可能性があります。
潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に原因不明の炎症が起こり、連続的に拡がっていく疾患です。
炎症によるびらんなどから腹痛を伴う下痢があり、粘血便が混じるのが特徴です。
症状の激しい活動期(再燃期)と症状の現れない寛解期を繰り返しますが、近年専用の薬などが登場し、活動期、寛解期を通じてしっかりと治療を続けることで、発病前の日常生活を保つこともできるようになりました。
大腸憩室出血
大腸の粘膜が何かしらの事情で小さな袋のように、反転して小さなタコ壷のようなものが大腸壁にできてしまうのが大腸憩室です。
このタコ壷状のくぼみは大腸壁でとても薄くなっているため、ちょっとしたことで出血する可能性があります。
これが大腸憩室出血で、ほんの少しの出血のときもありますが、時に便器が真っ赤になるほどの大量出血を起こすこともあります。
虚血性腸炎
大腸に酸素や栄養を届ける血管の血流が動脈硬化などによって一時的に鬱滞すると、その部分の腸粘膜に急激に炎症が起こってびらんや潰瘍となっている状態です。急激に腹痛が起こり普通の便通があったのち、鮮血が混じった下痢便や鮮血便がでることが特徴です。
便秘などでいきむことがきっかけで起こることもあります。